No.108-2(2000/3/14)

Chimpanzees know what conspecifics do and do not see.
(チンパンジーは同種他個体が何をみて、何をみていないかを知っている)

Hare, B., Call, J., Agnetta, B. and Tomasello, M.
Animal Behaviour, 2000, in press.

社会的な問題解決におけるチンパンジー(Pantroglodytes)を用いた一連の実験を紹介する。それぞれの実験で、劣位個体と優位個体が2個のエサをめぐって競争しないといけない場に導入された。エサがよく見え物理的に到達しやすいときは、すべての実験で優位個体が事実上すべてのエサを獲得した。しかし劣位個体であっても、優位個体よりもよくエサが見え、物理的到達のやさしい3つの状況下(例えば、エサが劣位個体にのみしか見えない所に置かれている=優位個体には見えない場合)においては、エサを獲得することにかなりたくさん成功した。ある場合では、劣位個体は優位個体の行動をその場で観察して、ただ単に優位個体が近寄ってきているエサを取ることを避けたのかもしれない(優位個体にとってはたった1つのエサしか見えないという状況のときもあった)。しかし、劣位個体の方をすこし早く競争の場に導入し、どちらのエサ(優位個体からも見ることが可能なエサか、自分にしか見えない所にあるエサのどちらか)を選ぶかを強制させるという手続きによって、ただ単にその場で観察していた結果だという可能性を除外した(その間、優位個体はまだ競争の場に導入されていないのでエサはみていない)。他の近年の研究とあわせて考えると、今回の研究はチンパンジーは同種の他個体が何を見ることができ、何を見ることができないかを知っていると示唆している。そしてさらに、自然状況下で生じる食物競争の状況においても、チンパンジーはこの知識をつかって効率のよい社会認知的戦略を工夫していることを本実験は示唆している。

(徳久)