No.614-2(2011/6/23)

Transcriptomic analysis of autistic brain reveals convergent molecular pathology.

(自閉症脳のトランスクリプトーム解析が明らかにする分子病理の収束)

Voineagu I, Wang X, Johnston P, Lowe JK, Tian Y, Horvath S, Mill J,Cantor RM, Blencowe BJ, Geschwind DH (2011)
Nature,474:380-4.

 自閉症スペクトラム(ASD)は、発症率が高く、遺伝性も高い神経発達の症状であるが、著しい遺伝的不均質性を特徴とする。そこで根本的な疑問は、無数にある遺伝または環境リスク因子が、脳において、症状の原因となっている共通の分子経路を撹乱させるかどうかである。今回我々は、遺伝子の共発現ネットワーク解析により自閉症脳と健常脳のトランスクリプトーム構成に一貫した違いがあることを明らかにする。特に、前頭皮質と側頭皮質における局所的遺伝子発現パターンの健常脳での典型的な違いが自閉症脳では顕著に弱まっており、大脳皮質のパターン形成に異常があることが示唆される。さらに我々は、共発現している遺伝子中に、自閉症に関連する別個のモジュールを見つけた。それらは、神経特異的スプライシング因子であるA2BP1(FOX1としても知られる)を含む、既知の自閉症関連遺伝子を多く含む神経モジュールと、免疫系遺伝子とグリア細胞マーカーを多く含むモジュールである。また、高処理RNAシークエンシングを用いて、自閉症脳において、A2BP1配下にあるエクソンの選択的スプライシングの調節に異常が起きていることを示す。さらに、公開されている自閉症のゲノムワイド関連解析(GWAS)データセットを用い、神経モジュールの遺伝子には、自閉症に関連のある変異が多く存在していることを示し、これらの遺伝子が自閉症の因子であることを独立に支持する。それに対し、免疫-グリアモジュールは自閉症GWASシグナルが特に多くなく、この過程は非遺伝的な病因であることを示す。以上より、我々の結果は自閉症において分子的な異常が集合している強い証拠を示し、転写とスプライシングの調節異常が、この症状における神経機能障害の基礎メカニズムであることを示唆する。  発表者:平松