Faithful replication of foraging techniques along cultural transmission chains by chimpanzees and children.
Horner V., Whiten A., Flynn E., & de Waal F.B.M. (2006).
PNAS, 103, 13878-13883.


要約

これまでの、野生のチンパンジーの観察研究から、文化の違いを示していると考えられるような、群れ間での行動の違いがみられることが明らかにされてきている。乳児が成体のやり方をよく観察したり、ある群れ内で何世代にも渡って同様の採食手法が用いられたりというような、文化的学習を示すような行動も報告されてきている。実験的な研究によっても、チンパンジーは観察によって複雑な行動を学習することができることが示されてきているが、これらの研究が、実際に野生でみられるような学習環境をどの程度綿密に作り出しているのかは定かではない。本研究では、採食手法の世代間での伝達のシミュレーションとして、ある行動がある個体から次の個体へと順番に伝えられていくというdiffusion chainパラダイムを用いた。three-group, two-action法を用いた結果、エサを手に入れるための2つの方法(ドアを上に開ける、もしくはドアを横に開ける)が、6個体と5個体の2つのチンパンジーのチェーンでそれぞれ正確に伝達された。つまり、各チェーンの最後のチンパンジーは、最初にトレーニングを受けたモデル個体と同様の方法を用いた。モデルなしのコントロール群の個体が、自力の探索によってどちらの方法も発見することができたことを考えると、各チェーンでの伝達の正確さは注目すべきことである。ヒトの幼児での比較研究も、同様の結果を示した。本研究は、ヒト以外の霊長類における、異なる採食手法の直線的な伝達を実験的に示した最初の研究である。本研究の結果は、チンパンジーが、(実験的に作り出された)何代もの世代に渡って、その群れ特有 の手法を維持する能力を持っていることを示している。