No.1027-1(2020/9/17)

Extended high-frequency hearing enhances speech perception in noise.

(恒温域聴力が騒音下の発話音声知覚を向上させる.)


Zadeh LM, Silbert NH, Stermasty K, Swanepoel DW, Hunter LL, Moore DR (2020).
PNAS, 116, 23753–23759.

  健常な若年成人であれば20kHzまでの音を聞くことができる。しかし臨床的に用いられる聴力検査では,検査周波数は8kHzに限られる。より拡張された高周波数(EHF:8–20kHz)には,明瞭な音声知覚に寄与する重要な情報が含まれることが示唆されているが,そのような情報が騒音下のような困難な聴取場面で利用されるかどうかは不明である。騒音下での会話理解の困難さは,聴覚における⼀般的な懸念事項であり,また加齢性難聴の最初の兆候となる。騒音下での発話音声認識に関して広く使われるDIN テスト(digits-in-noise)において,低域通過フィルタをかけた広帯域(ブロードバンド)ノイズをマスカーに用いることで,恒温域聴力の難聴を検出することができる。本研究では,通常の聴力検査およびEHF帯域の聴力検査,自己申告による聴取困難アンケート,2,4,8kHz を遮断周波数としたローパスフィルタ用いたDINテストを実施し,恒温域聴力が騒音下の音声知覚に与える影響を検討した。その結果,①参加者116名のうち74名(主に若者)がEHF 帯域に何らかの難聴を有していた。②EHF 難聴は自己申告による騒音下での聴取困難と相関していた。③DIN の聴取閾は,マスカーに広帯域フィルタリングノイズ(≤8 kHz)を⽤いた場合でも,ブロードバンドノイズを用いた場合より有意に低かった (p<.0001)。これらから,8 kHz以上の高周波数成分は騒音下での発話音声知覚に寄与することがわかる。本結果は,「正常な聴力」を有する人の多くが訴える騒音下での聴取困難の⼀因が,EHF難聴であることを示唆する。     発表者:山崎