No.917-2(2017/12/14)

Intranasal oxytocin treatment increases eye-gaze behavior toward the owner in ancient Japanese dog breeds

(オキシトシンの鼻腔内投与は、古代日本犬種において飼い主への視線を増加させる)


Nagasawa M, Ogawa M, Mogi K & Kikusui T (2017)
Frontiers in psychology, 8: 1624.

イヌは家畜化の間に特有の認知スキルを獲得し、それがヒト-イヌ間の絆形成に寄与したと考えられている。ヨーロッパ犬種ではイヌの視線行動はヒトとの親愛的インタラクションに重要な役割を果たし、ヒトとイヌ両方でオキシトシンの分泌に作用するが、オオカミではそうではない。そのため、この種間のオキシトシンと視線による絆形成も家畜化の間に獲得されてきたと示唆されていた。本研究では、古代犬種に分類され遺伝的にオオカミに比較的近い日本犬種が、視線行動を通して飼い主との絆を形成できるかを調べた。実験参加個体のイヌは行動テストの前にオキシトシンまたは生理食塩水の投与を受けた。我々は相互視線時の飼い主の生理学的変化-心拍変動(HRV)とイヌと飼い主両方の実験後尿中オキシトシンレベル を評価した。結果として、オキシトシン処置は、ヨーロッパ犬種と同様日本犬種で視線行動を増加させ、飼い主のオキシトシンレベルを上昇させたが、皮膚接触と飼い主への近接は比較的低かった。心拍変動では、瞬時心拍数(R波; R-R)の変動(RRI)とR-R変動の標準偏差(SDNN)、RMSSD(隣接するRR間隔の差の2乗の平均値の平方根、緊張の指標)は、生理食塩水の処置をしたイヌよりもオキシトシンの処置をしたイヌで低かった。さらに、メスのイヌの飼い主はオスのイヌの飼い主よりもSDNNが低かった。これらの結果から、インタラクションの間メスのイヌの飼い主ほど高い緊張を示し、視線行動とは違い、イヌもヒトもインタラクション時に性差を示した。また、ヨーロッパ犬種と同じく日本犬種も愛着行動として視線(eye-gazing)をヒトに対して使うが、飼い主におけるオキシトシン分泌についてはイヌの性間の不均衡があった。さらに、日本犬種はヨーロッパ犬種やオオカミとは異なる愛着行動を示し、ヒト-イヌの絆形成において視線を代用する上でまた違った戦略を用いているようであった。 発表者:荒堀