No.969-1(2019/2/7)

Social modulation of risky decision-making in rats (Rattus norvegicus) and tufted capuchin monkeys (Sapajus spp.).

(ラットとフサオマキザルにおけるリスクを伴う意思決定の社会的調整)


Zoratto F, Oddi G, Gori E, Micucci A, De Petrillo F, Paglieri F, Adriani W, Laviola G & Addessi E. (2018).
Behavioural Brain Research, 347: 37–48.

 ヒトとヒト以外の動物はともに,社会的環境において頻繁にリスクを伴う意思決定を行う。それにも関わらず,社会的文脈の意思決定への影響については,ほとんど検討されていない。そこで,本研究では初めて,ラットとフサオマキザルを対象に,同種他個体の存在がリスク選好に影響を与えるか否かについて検証した。被験体1個体のみの条件(Alone条件)と同種他個体がいる条件(Paired条件)の各条件において,不変・リスクなし選択肢と変動・リスクあり選択肢のうちいずれか一方を選択させた。変動・リスクあり選択肢の平均報酬量は,不変・リスクなし選択肢の平均報酬量よりも常に少なかった。全般的に,リスクに対する態度について種差が見られた。すなわち,ラットはリスクなし選択肢とリスクあり選択肢を同程度,選択したが,フサオマキザルはリスクなし選択肢への選好を示した。両方の動物種において,リスク選好は,Alone条件よりもPaired条件において変化したが,その変化の方向性には種差が見られた。すなわち,ラットにおいては,Paired条件で時間の経過に伴ってリスク選好が高まったが,フサオマキザルにおいては,Alone条件よりもPaired条件の方がリスクあり選択肢の選択数が少なかった。更に,ラットにおいて不安様行動はセッション間で減少したが,フサオマキザルでは,Alone条件よりもPaired条件で不安様行動が多く見られた。したがって,本研究の知見によって,不安の低下はリスク選好の上昇と,不安の上昇はリスク選好の低下と対応しているという,これまでヒトに適用されてきたエビデンスを2種の遠縁な非ヒト動物種に広げることができる。このことから,ラットとフサオマキザルで観察された社会的影響によるリスク選好の調整は,共通の進化的祖先やメカニズムによるものであるということが示唆される。   発表者:永野