大神田麻子(板倉研D3)
タイトル:反応バイアスのメカニズムと文化差
要旨
| 就学前児は、「はい」か「いいえ」で答えるYN質問に、偏った反応を示すことがある。「はい」と答える傾向が強い現象を特に肯定バイア スと呼ぶ。先行研究では、2、3歳児は単純なYN質問に強い肯定バイアスを示した(Fritzley and Lee, 2003)。本研究では、子どもがなぜ肯 定バイアスを示すのか、そのメカニズムについて調べた。第一に、日本とベトナムの2国のアジアの子どもが先行研究の北米の子どもと同じ ように肯定バイアスを示すかどうか調べた。その結果、アジアの子どもは、北米の子どもと同じように、2,3歳ごろには肯定バイアスを示 し、5歳にはYN質問に正しく答えられるようになることが分かった。一方、アジア人特有の反応バイアスも見られた。日本人の2歳児は、YN 質問になにも答えない無言反応をよく示した。4,5歳児は、「分からない」と答えることが多かった。さらに、アジアの子どもは、4歳でも 「はい」と答える傾向にあった。肯定バイアスという現象は、文化や言語に関わらず同様であるが、その発達速度や、反応態度には文化に よる違いがあることが示唆された。本研究では、この研究を元にして、子どもがなぜ肯定バイアスを示すのかという普遍的な要因と、文化 によって異なる反応態度について検討した。その結果、3歳児の肯定バイアスはかなり自動的(あるいは反射的)な反応である可能性と、4 歳児は「はい」と答える社会的な理由を持ってい・ る可能性が示唆された。また、肯定バイアスは言語年齢や抑制能力と関わっており、3 歳児は、正しい回答を知っていても、間違った「はい」を言ってしまうことが分かった。さらに、日本人は、「はい」か「いいえ」という 2選択しかない質問をされた場合、回答が分からないときには、英語圏の子どもとは異なり、無言になったり「わからない」と答える傾向が 強い。最後に、子どもが「はい」と答える意味について、論議する。 |