上野 将敬(日本学術振興会PD)
タイトル 他者を感じる
要旨
社会集団を形成する霊長類の進化過程において、他者の顔を識別する能力が重要であったと考えられる。人は生後間もないころから多様な顔を識別する能力を持っているが、生後9か月ごろには、他種や他人種の顔を識別することが難しくなる。経験を積むことで、自身と類似した(自種や自人種)顔の識別に特化していくのだと考えられている。ただし、生後9か月を過ぎた後でも、経験を積むことで他種や他人種の顔を識別する能力を向上させることができる。霊長類研究者は、多くの場合、成人した後で対象集団を長時間観察し、他種の個体識別能力を獲得する。霊長類研究者の個体識別能力は、人の赤ちゃんが持っている個体識別能力と同質のものなのだろうか。それとも、別の方略を用いることで個体識別を可能にしているのだろうか。発表者は現在、生後6か月、12か月、一般の成人、霊長類研究者を対象として、個体識別能力がどの程度あるのか、どのような情報を用いて個体を識別しているのかを検討している。今回は、これまでの進捗状況と今後の方針について発表する。また、本年度並行して行った、人工知能による個体識別やニホンザルの観察研究の成果を紹介し、霊長類を通して「他者の認識」について考えたい。 |