Cognitive and physiological markers of emotional awareness in chimpanzees (Pan troglodytes).
( チンパンジーにおける感情の認識の認知的・生理学的指標)
Parr, L. A.
Animal Cognition, 2001, 4, 223-229.他者の感情を理解する能力は、霊長類において社会的な相互作用を統制するための最も重要な要因のひとつである。そういった感情の認識により、同群内の個体の間で行動は調整され、長期にわたる個体関係を形成することが可能となり、他個体と興味を共有し、追うことが容易になる。このように重要、かつ進化的にも関わりがあるものであるにもかかわらず、ヒトと大型類人猿における感情の処理の比較研究はほとんどない。そのため、ヒトの行動と社会を形作る上で、どの程度感情の認識が重要な役割を果たすかについての理解には大きなギャップがある。この論文では、感情に訴えるような刺激に対するチンパンジーの反応を調べた2つの実験を発表する。1.被験体が3つのカテゴリーの不快感を与えるビデオ画像(注射される同種個体(INJ)。ダーツや注射針が単独で出てくる(DART)。獣医に対し闘争心を向ける同種個体(CHASE))を見ているときの、彼らの周辺における肌温度の変化を測定した。2.チンパンジーは、感情に訴えるビデオ(好きな食べ物、好きな物、獣医の処置)を、それらの感情的なポジティブとネガティブの値によってカテゴリー分けするために、顔の表情を用いることが要求された。前もって特に訓練しなくても、被験体は、それらの感情的な意味を共有することによって、感情に訴えるビデオと、同種の顔の表情を自発的にマッチさせた。これは、チンパンジーの顔の表情が、ヒトの表情と同様に、感情をともなって処理されていることを示唆している。CHASE条件とくらべると、INJ条件・DART条件においてビデオを見ているときに、かれらの周辺における肌の温度の低下(ネガティブな感情の喚起の指標)は有意に多かった。これは、注射されている場面や、注射そのものを見たときのほうが、同種の一般的な闘争場面を見たときよりもネガティブな感情が喚起されることを示唆している。
(足立)