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21世紀COEプログラム「心の働きの総合的研究教育拠点」
平成14年度 各研究チーム活動計画(研究協力者を含む)

A.「イメージと表象の性質と機能」、 B.「身体化される心」

C.「文化・社会的環境との相互作用」、 D.「進化と生涯発達」

A.「イメージと表象の性質と機能」
 チームリーダー: 苧阪
 サブリーダー: 大山、齊藤
 チーム構成員: 藤田、櫻井、楠見、やまだ、岡田、藤原、皆藤、河合、鶴田、江島、船橋、山本、齋木、友永、田中

苧阪直行:実行系機能の脳内表現
言語性及び空間性ワーキングメモリにおける実行系機能を行動及び機能的脳イメージング手法を用いて解析する。

藤田和生:明示されない刺激事象の認識に関する比較認知科学的研究
感覚器官で直接感知できない事象の認識の行動的分析を通じて、心の進化を明らかにする。

櫻井芳雄:記憶形成を担う機能的神経回路網の動的変化
新たな記憶を形成するプロセスをとおした神経回路網の活動変化について実験的に検討する。

楠見孝:知識表象の構造と利用
比喩理解、類推、意思決定を支える知識構造と処理過程を解明する。

齊藤智:ワーキングメモリー
心的表象とワーキングメモリーシステムの関係に関する研究

やまだようこ:生涯発達のイメージとナラティヴ
ライフサイクルと他界イメージ。 多文化比較に基づく生涯発達観と生命観モデルの構築

岡田康伸:心理臨床における箱庭イメージに関する研究
箱庭を中心にイメージ表現過程を研究する。

皆藤章:画におけるイメージ表現
描画におけるイメージ表現を、心理療法の実践から関係性という概念を基軸に考える。

河合俊雄:夢における個人的・社会的諸相
夢を検討することから、個人の問題、治癒可能性、及び現代の状況をさぐる。

鶴田英也:心理臨床過程におけるイメージ
心理臨床におけるイメージの変容過程についての研究―特に反復という概念および現象に照らして―

藤原勝紀:臨床イメージ体験に関する臨床実践的研究
心理臨床における臨床イメージ法及び心理的体験に関する実践と研究。

大山泰宏:箱庭制作および描画のプロセス
箱庭制作や描画のプロセスに関して、 映 像メディアの記録等を用いて研究をおこなう。

江島義道:脳機能イメージングによる形態知覚の脳内過程に関する研究
fMRI, MEG, VEPによって形態知覚に関与する神経機構の脳内座位、ダイナミズムを研究する。

船橋新太郎:情報の内的表象とその操作の神経機構
ワーキングメモリに関わる神経機構を手がかりに、内的、外的な情報が神経系でどのように表象され、どのように処理されるのかを明らかにする。

山本洋紀:脳機能イメージングによる形態知覚の脳内過程に関する研究
fMRI, MEG, VEPによって形態知覚に関与する神経機構の脳内座位、ダイナミズムを研究する。

齋木 潤:視覚的作業記憶の時空間特性
動的な状況における多次元からなる物体情報の視覚的作業記憶のメカニズムを心理物理実験,数理モデル,脳機能イメージングの手法により解明する.

友永雅己:チンパンジーにおけるカテゴリー認識
写真等の刺激に対するVisual preferenceの差から、チンパンジーのカテゴリー認識、およびその発達過程を調べる。

田中正之:チンパンジーにおけるカテゴリー認識
写真等の刺激に対するVisual preferenceの差から、チンパンジーのカテゴリー認識、およびその発達過程を調べる。

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B.「身体化される心」
 チームリーダー: 伊藤
 サブリーダー: 蘆田、松村
 チーム構成員: 板倉、吉川、山中、河合、桑原、黒川、内藤

B-1 (松村、蘆田、吉川、板倉、内藤、梶井)

B1チームは,基礎的外界認識やコミュニケーションにおける心身の相互作用の解明と応用のため,行動実験、脳活動計測,モデル作成などの諸手法を用いた実験科学的な研究を行う.

研究内容
・感覚と運動の統合機構の神経科学的研究 (松村)
・身体制御のための視覚情報処理に関する心理物理学的研究 (蘆田)
・非言語コミュニケーション信号に対する認知・情動処理の特性 (吉川)
・乳児による身体を介した自己知識の獲得 (板倉)
・身体化による認知機構の解明 (乾)
・視覚的外界認識と眼球運動 (梶井)
その他

活動
Team B1セミナー :メンバーによる研究発表を中心に,チーム全体で議論を行なう 場としてのセミナーを月1回程度開催する
春休み集中セミナー:院生教育 「cognitive neuroscienceを読む」(松村)

B−2 (山中、伊藤、黒川)
 研究内容
・ 遺伝子解析の急激な進歩に対する人間主体の心理的在り方に関する研究
   京大病院遺伝子診療部との連携による心理臨床実践と研究
・ 小児科における心理臨床実践と研究
   小児疾患や骨髄移植についての心理臨床的援助に関する研究
・ 高齢化社会における心理臨床実践に関する研究
・ 心理臨床における表現療法
・ 身体と心を繋ぐものとしての言葉に関する心理臨床実践研究

 シンポジウムの開催予定
3月「遺伝子解析研究と臓器移植に関するシンポジウム」(予定)


B−3 (山中、伊藤、黒川)
 研究内容
・ 人間に生じる衝動的な行動化に関する研究
   医療少年院のスタッフとの合同事例研究
 
 シンポジウム開催
    2月15日「子どもたちをめぐる暴力」(教育学研究科附属臨床教育実践研究センターと共催)
  シンポジスト:白石潔氏(心のクリニック飯塚・子どもセンター所長、白石精神分析研究所所長)
           安保千秋氏(京都弁護士会子どもの権利委員会委員)
           井上真氏(情緒障害児短期治療施設横浜いずみ学園セラピスト)
  指定討論者:アラン・グッゲンビュール氏(スイスユング派分析家)
           倉光修氏(大阪大学大学院教授) 

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C.「文化・社会的環境との相互作用」
 チームリーダー: 杉万
 サブリーダー: 桑原
 チーム構成員: 吉川、東山、渡部、松沢

 Cチームは、文化・社会と心との相互作用を解明するために、心理システムの社会・文化的構成課程、グローバル化や技術文明の進化に対応した臨床的実践の研究、行動規範、価値観、倫理の実証的研究の3つの課題に焦点をあてる。具体的研究計画は以下のとおりである。

C−1.心理システムの社会・文化的構成(代表:北山)
認知・感情・動機づけといった心理システムの諸要素は、文化に参加することを通じてはぐくまれるという側面を持っている。第3グループの第1課題では、この問題を、文化間比較実験研究を通じて探索する。特に次の2点に焦点をあてる。

1. 暗黙の自己意識とその社会文化的基盤
 暗黙の自己意識とは、自己と間接的に連合している信念のことである。たとえば、仮に、ある人が自分は「いろいろな人の意見をよく聞く」と考えており、さらに、「いろいろな人の意見をよく聞く」ことは一般的には関係志向的な特徴であると考えているとする。しかし、このような場合、当人は、自分自身が関係志向的であると考えているとは限らない。なぜなら、自己判断には必然的に社会的比較が関わってくるからである。たとえば、周りの大多数の人も「いろいろな人の意見をよく聞く」としたら、「いろいろな人の意見をよく聞く」ことは単に当たり前のことであると考えることであろう。すると、自己と関係志向という二つの概念の間には直接の連合はない。よって、明示的レベルでは、本人は、「自分は関係志向的である」とは考えないであろう。しかし、これら2つの概念は「いろいろな人の意見をよく聞く」という行為の表象を介して間接的に連合している。よって、暗黙のレベルでは、本人の思考や行動は、「自分が関係志向的である」という認知によって影響を被ることになる。われわれは、ここにみられるような間接的連合によって媒介された暗黙の自己意識を測定することにより、暗黙の自己意識は、明示的なものとは無関係であり、さらに、文化の慣習や公の意味構造は暗黙の自己意識の方に強く反映されているとする証拠を、一連の日米比較研究を通じて得ている。本プロジェクトではこの点をさらに探索し、文化と自己についての理論の精緻化を図る。

2. 基礎的知覚・認知プロセスに及ぼす文化的バイアスとその社会的起源
 近年の文化心理学的認知研究は、社会的認知の分野で広く認められてきている認知的バイアスの文化間の差異が、単なる社会的規範への同調といった行動レベルのものだけではなく、実は、より根本的な認知レベル、特に注意のバイアスに帰着できることを示してきている。たとえば、東洋では文脈を考慮する傾向が、また欧米では文脈を無視する傾向が、それぞれ優勢だが、われわれは一連の研究を通じて、これらの文化的差異が、社会性を一切捨象した抽象的図形刺激への判断でもみられることを見いだしている。さらに、現前の刺激の知覚の際に、認知的先入観(ベースレイト)に惑わされる程度は、欧米で比較的弱いため、たとえば発想がしばしばより「柔軟」になりがちであることなどが指摘されている。また、日本など東洋では認知的先入観(ベースレイト)が知覚に占めるウェイトが相対的に高く、その結果、発想が「保守的」になることなども指摘されている。われわれは、このような認知的差異は基本的認知傾向のバイアスに根付いているという可能性を検討してきている。われわれの最新のデータは、認知判断に占めるベースレイトのウェイトの文化的差異が、線分の長さなどについての知覚判断でも非常に顕著にみられることを示している。本プロジェクトではこれらの点をさらに探索し、文化と認知についての理論の精緻化を図る。究極的には、基礎的認知バイアスの多くは、当該の文化や社会の慣習や意味構造と相互構成的であり、よって、その起源は社会的なものであるという作業仮説の是非に迫りたいと考えている。


C−2.グローバル化や技術文明の進化に対応した臨床的実践の研究(代表:桑原)
 グローバル化や技術文明の進化が進む現代社会において、これらに対応した臨床的実践の開発が望まれる。第3グループの第2課題では、この問題を比較文化、学校現場、司法現場の3つの視点から検討する。

1. 東西文化研究
 日本は、東洋の文化だけではなく、そこに欧米の文化を取り入れて独自の文化を形成している。この文化のぶつかりは、固有の文化を生み出した側面も有るが、現代の(臨床)心理的な問題の背景とも決して無縁ではない。東西のこころのあり方に注目して研究をすすめる。今年度中には、まず、パイロットスタディを行う。

2. 学校現場
 教育現場では、様々な問題が起こっている。臨床心理士が数多く現場に入ることになったが、その方法論は確立されていない。教師の側の、ニーズも非常に高まっている。そこで、現場でどういったことが起こっているのか?何が求められているのかを調査、研究する。さらに、現場に入っているスクールカウンセラーのスーパーヴァイズ及び、研究会を開催する。最後に、現場の教師に対する指導、助言なども、現行の体制をさらに充実させる。

3. 司法現場
 少年事件がおこり離婚や虐待といった家族の問題が多発している。日本の現状だけでなく、国際的な視野も考慮に入れながら、研究を進めたい。まず、家庭裁判所調査官や弁護士と臨床心理士がチームを組んで、事件や問題に対して考えていくプロジェクトをたちあげる。最初は、まず、症例検討会の実施から始め、しだいに交流を深めながら、互いの持つ「知」を生かすことを考えたい。


C−3.行動規範、価値観、倫理の実証的研究(代表:渡部・杉万)
 現代の社会システムは、刻一刻と変化し、それに応じて、社会システムのデザイン自体を革新していく必要はかつてないほど高い。第3グループの第3課題では、この問題を異なる文化・地域の相互交流と交換と秩序の進化の2つの視点から検討する。

1. 異なる文化・地域の相互交流
 グローバリゼーションのうねりの中で、異なる文化、国々の利害がぶつかりあう機会が増加しつつある。それは、裏から見れば、今まで交流の乏しかった文化や国家が、相互に刺激しあい、新しい社会システムが創造される機会が増大することでもある。同じことは、日本国内についても言える。都会と田舎、行政と住民などの間には、従来見られなかった対立関係が生じつつあるとともに、他方では、両者の間に新しい社会システムを構築する機運も生まれつつある。以上の立場から、単に、異なる文化・国家や異なる地域・集合体を客観的に比較分析するのみならず、研究者自らが、フィールドに飛び込み、対立を創造に変換するモーメントとなる実践的研究を展開する。具体的には、以下のとおり。

a) バイオテクノロジーの社会的受容に関する国際プロジェクト。遺伝子操作を含むバイオテクノロジーは、飛躍的な進歩を遂げつつある。同時に、バイオテクノロジーの医療、農業等の分野への応用には、それを推進する動きと推進に慎重な(あるいは反対する)動きが並存している。国内的に見ても賛否両方の立場が存在するが、グローバル化する経済の中においては、文化、国によるスタンスの違いが大きな焦点となっている。本研究では、EU、米国、カナダ、日本による国際プロジェクトを通じて、@世論、Aメディア、B政策決定過程という3つの言説領域を分析することによって、各国の共通点と相違点を浮き彫りにし、今後の世論形成、政策立案に資する。

b) 発展途上国の救援・発展支援プロジェクトに関するフィールド研究。発展途上国、とりわけ、貧困や政情不安にあえぐサハラ以南のアフリカ諸国には、先進国からの援助が強く求められている。もちろん、援助の経済的側面は重要であるが、それに並んで、まさに異文化の協同という社会−心理学的側面も重要である。また、政府ベースの援助に加えて、NGO(非政府組織)による民間ベースの援助も大きなウエートを占めつつある。本研究では、スーダンをフィールドとし、国連、政府、NGOによる援助の実態を調査し、そこに潜む社会−心理学的諸問題を摘出する。同時に、同国との相互理解を深めるために必要な比較文化心理学的研究をも推進する。

c) コミュニティの活性化に関する研究。近年、全国各地で自らのコミュニティを活性化しようとする活動が行なわれている。それらは、阪神大震災以降のボランティア活動の普及とあいまって、従来の行政主導のまちづくり・村づくりに変革を迫っている。本研究は、さまざまなコミュニティ活性化の動きの中でもユニークな活動を取り上げ、研究者もその実践の中に身をおきながら、そこでの教訓をメッセージ化する。具体的には、@過疎地域における住民自治システム構築、A住民主体の地域医療を軸とする活性化、B住民参加による教育を軸とする活性化を研究対象とする。

2. 交換と秩序の進化
 交換理論は、心理学、社会学、経済学、人類学などの諸分野に共通するパースペクティブのひとつとして、学際的な発展を遂げている。具体的には、社会的・経済的交換に伴う不確実性という問題をいかに解決するかという共通の問題点に関し、それぞれの分野でユニークなアプローチが取られている。このプロジェクトでは、「交換と不確実性」をキーコンセプトとして、個人のとる行動とマクロな資源交換のパターンとのダイナミズムを明らかにし、社会秩序と市場取引の生成メカニズムの理論化を目的とする。そのために以下の研究を予定している。また、これらのプロジェクトを推進するにあたり、研究会・シンポジウムを適宜開催する。その際、心理学のみならず。経済学、社会学、政治学、人類学といった分野からの参加者も積極的に募り、学際的アプローチの活性化を図る。

a) 進化論的視点によるマイクロ=マクロ ダイナミズムの発達。人間が進化の過程で培ってきた様々な心理的特性が、特定の交換体系の生成とどのような関係にあるかを明らかにする。具体的には、感情や意思決定のスタイルといった心的特性が、交換に伴う互恵性や制度の出現のために果たす役割を、明らかにするための実験研究を行う。さらに、コンピュータシミュレーションなどの手法も併用して、進化論的アプローチからそれらの生成・維持メカニズムの説明を試みる。

b) 経済・政治システムにおける心的メカニズムの役割とその規定要因政治的秩序の生成と維持のしくみや、市場の健全な運営の条件、政治学や経済学の中心的な研究対象だが、近年、心理的要因がこれらのしくみや条件に、大きな役割を果たすという指摘が為されている。だが、これらの分野ではまだ心理学的知見の蓄積が少なく、心理学者からの貢献が求められている。このプロジェクトでは、グループ実験と調査を併用しつつ、市場の生成と崩壊の条件と相互信頼の構築を支援するしくみを明らかにするための研究を行う。

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D.「進化と生涯発達」
 チームリーダー: やまだ
 サブリーダー: 板倉、田中
 チーム構成員: 藤田、子安、金田、遠藤、溝上、松沢、友永

シンポジウム等企画:

平成14年度
ワークショップ
 企画者:子安、板倉
 テーマ:視線方向検出モジュールの進化と発達(仮題)
 概 要:James Anderson (University of Stirling) 先生の講演を軸に、上記のテーマに沿ったワークショップを行う。
 日 程:2003年1月第3週(詳細未定)
 場 所:京大近辺(未定)

シンポジウム:(霊長研共同利用研究会)
 企画者:田中、松沢、友永
 テーマ:ヒトを含む霊長類における認知と行動の発達
 概 要:2000年より開始されたチンパンジー乳児を中心とした比較認知発達プロジェクト、および霊長類研究所・共同利用研究の計画研究「チンパンジー乳幼児期の認知行動発達の比較研究」の成果報告を中心に、海外の研究者数人を招聘して研究交流をおこなう。
 日 程:2003年2月第3週(詳細未定)
 場 所:霊長類研究所

平成15年度以降
 企画者:やまだ
 平成15年以降には、「生涯発達のイメージとナラティヴ」にかかわる国際ワークショップあるいは国際シンポジウムを計画する予定である。
 
 企画者:藤田
 仮テーマ:「自己理解と他者理解」
 国内外から、本テーマに関連した研究をおこなっている動物、発達、障害児研究者を招へいして総合的に論議したい。詳細未定


個人別研究計画
・やまだようこ
生涯発達心理学の理論モデルや方法論を、日常生活のフィールドで生きている人々がもっているイメージやナラティヴ(語り・物語)から問い返し、新たな生涯発達観や方法論を提案する。(やまだようこ・遠藤利彦・溝上慎一の共同テーマによる研究である)

研究テーマ1:ライフサイクルと他界イメージ -多文化比較に基づく生涯発達観と生命観モデルの構築
従来の生涯発達心理学の理論は、西欧近代の個人・進歩モデルに依拠し、発達観が埋め込まれた文化的文脈が考慮されてこなかった。東アジアの発想から西欧近代の発達観を問い直すための多文化比較(日本、ベトナム、イギリス、フランス)研究を行い、「この世とあの世」イメージ描画による生死と他界の表象を基に、世代間連関を含む新たなライフサイクル理論を構築する。

研究テーマ2:人生のイメージとライフストーリー
a) 生死にかかわる語り(ナラティヴ)の研究。親しい人を亡くした人が「喪失」からどのようにして立ち直り「生成」に向かうのか、そのプロセスをインタビューによる「語り(ナラティヴ)」の分析から明らかにする。
b) 詩や小説や映画やパーソナル・ドキュメンタリーなど多様なテクストを素材にして、人生と生死にかかわるライフストーリーを分析する。
c) 多文化と多世代比較による「人生のイメージ」描画の研究から、人々が暗黙のうちにもつ多様な発達観をとりだし、生涯発達心理学の新たなモデルを提案する。

研究テーマ3:私(自己)と母(重要な他者)の関係イメージ
 幼いとき、現在、未来について「私と母の関係」を描いたイメージ画の多文化・多世代比較から、重要な他者との関係からみた自己像の発達の姿を図像的に調べ、人々が暗黙のうちにもっている自己観と発達観を母子関係の側面から明らかにする。

研究テーマ4:フィールド心理学と質的心理学の方法論
 モデル構成的現場(フィールド)心理学と質的心理学の方法論を構築し、その教育方法のカリキュラムを作成する。また後進を育てるために「質的心理学研究」の発刊など理論的・実践的な研究活動を行う。

シンポジウム
 平成14年度は、北山忍先生企画の「認知の社会・文化的基盤」International Symposium on the Socio-Cultural Foundation of Cognition( 2002.12.14-15)において、Selves and others in the places; The spacial representations of this world and the next world in multiple cultures を発表する。
 平成15年以降には、「生涯発達のイメージとナラティヴ」にかかわる国際ワークショップあるいは国際シンポジウムを計画する予定である。


・遠藤利彦
「生涯発達のイメージとナラティヴ」(やまだ、溝上と共同)
研究テーマ1:養育期(parenthood)とイメージ・ナラティヴ@:
養育者の成育過程に関する語り・表象と子どもの社会情緒的発達
・日本で収集した母親のAAI(成人愛着面接)における語りを、規定の愛着研究の枠組み(カテゴリー・スキーマ)から離れて質的・量的双方の側面から多次元的に分析し、そこに現れる種々の特質と、子どもの社会情緒的発達との関連性を問う。

研究テーマ2:養育期(parenthood)とイメージ・ナラティヴA:
養育者の子どもイメージおよび子どもの主観性に関する語りと具体的相互作用との連関
・乳児の各種行動を収めたビデオ刺激に対する養育者の自発的な語りおよび主観性の帰属 の様態を探り、その特質が養育者のパーソナリティや成育過程等のいかなる要因と関連 し、また、現在の自分の子どもとの具体的相互作用にどのように反映されるかを明らかにする。

研究テーマ3:幼児期とイメージ・ナラティヴ:
「想像上の仲間」との対話的語りと養育環境
・幼児(就学前児)の「想像上の仲間」との関わりの中で生み出される自発的語りから幼児期におけるイメージ・ファンタジー世界の精密性・体系性・整合性等の特質を探り、それがいかなる養育環境のもとで生み出されやすいかを明らかにする。


・溝上慎一
「生涯発達のイメージとナラティヴ」(やまだ、遠藤と共同)
研究テーマ1:大学生の内的世界における未来展望の生涯発達的スコープ
大学生の未来展望のほとんどは就職や大学院進学であることが実証されているが,いうまでもなく,その背後には一定程度の彼らなりの人生設計がある。これは,彼らの内的世界からみた生涯発達観を明らかにする研究である。
これまでの先行研究をふまえると,とりわけ,この問題には男性,女性の生涯発達観の違いが露呈しやすいと考えられる。本研究では,人生設計の年齢幅を「生涯発達的スコープ」と称し,その実情を明らかにし,その観点から彼らがどのように未来展望の内容を構成しているのかを明らかにする。

研究テーマ2:「大学生」を生涯発達的に位置づける
青年心理学では,「大学生」はア・プリオリに「青年期」あるいは「青年期後期」に属するものとしてこれまで位置づけられてきた。つまり,青年期が先にあって,その中に大学生期が位置づけられるという構造である。この順序を,以下の考察に従って入れ替える概念的作業がここでの研究目的である。
 「青年」は,これまで二重の定義を背負って用いられてきた。すなわち,その定義である「子ども」から「大人」への移行,移行期というものであるが,そこでの「子ども」「大人」には社会的な意味と発達的な意味とがあったことが,これまでの青年研究ではほとんど無視されている。社会的単位して用いられてきたことは,広く「青年」という言葉が若者呼称に用いられていたことから明らかである。明治,大正期には頻繁に確認される。そして「青年期」は,「青年」の社会的誕生によって生じたといっても過言ではない。
 しかし「青年」という呼称は,社会的「大人」がその社会的権威弱体化によって見えにくくなることによって崩壊した。しかし,「青年期」は,発達的な「児童期」「成人期」との関係で今でも存在しているように見える。その存在理由を維持しているのは,社会的な「大人」「子ども」によって成立する「青年」ではなく,教育ステージ(中学,高校,大学など)が「青年」呼称に代わるものとして時代的に頭角をあらわしているからである。
 こうして,教育ステージを社会的存在として先におくと,大学生の発達課題が単に一人前の社会人,大人になる程度のもののみならず,生涯発達的な課題をそこに数多く内包したものであることが容易に理解されるようになる。エリクソンの漸成図式が時代の産物であることも,そしてそれがジェンダーの差異程度の議論でないことも,こうした観点から明らかになるはずである。

研究テーマ3:大学生の入学前から入学後への「移行」にともなう生涯発達観の変化
大学生研究でもっとも今焦点化されている問題の1つは,入学期の移行過程である。しかし,ほとんどの研究では,それはキャンパスへの適応問題として扱われており,彼らがこの移行過程に際して,人生観,生涯発達観をどのように変化させているかはほとんど扱われていない。
 大学生が入学前に抱く未来展望が現実的に未熟であり,それ故に,大学生になって広がる世界観のもと,人生の見通しや設計が急速に再構成される。この人生という世界構成の過程を,生涯発達的なスコープのもと,質問紙調査,インタビュー調査によって実証的に検討することが本研究の目的である。

シンポジウム:
 平成15年以降には、「生涯発達のイメージとナラティヴ」にかかわる国際ワークショップあるいは国際シンポジウムを計画する予定である。


・子安増生
「意図の検出と理解の生涯発達」
 「心の理論」の生涯発達を「他者の意図の検出と理解」という観点から、幼児、児童、成人について調べる。テーマ1とテーマ3は、既に研究をスタートさせている。

研究テーマ1:運動物体への意図の帰属
 運動する物体(球形、動物のキャラクター)をパソコンのディスプレイ上に示し、運動の特性(物理法則的運動、意図的運動、ランダム運動)とその運動に帰属される意図の関係を調べる。当面、大学生を対象とする。

研究テーマ2:目の動きから読み取る意図
 演劇における俳優の目の使い方と表現される意図の関係を調べる。特に、演劇のエキスパート化の進行にともなう目の演技の表現力がどのような下位能力に支えられているかを分析する。プロフェッショナルでない演劇俳優を対象とする。

研究テーマ3:悪意の理解――作為と不作為の弁別
 意図的な行為によって他人に不利益を与える場合(作為)と、意図的に何もしないことによって他人に不利益を与える場合(不作為)の違いを一次的信念と二次的信念のそれぞれが関与する場合に分けた4つの物語を提示し、登場人物の意図がどのように認識されるかを調べる。当面、小学生を対象とする。

シンポジウム
 平成14年度は、板倉昭二先生と共同で下記のワークショップの開催を予定している。
テーマ:視線方向検出モジュールの進化と発達(仮題)
概 要:James Anderson (University of Stirling) 先生の講演を軸に、上記のテーマに沿ったワークショップを行う。
日 程:2003年1月第3週(詳細未定)
場 所:京大近辺(未定)

・藤田和生
「内省と読心の発生」
自己の状態に関する意識と他者の内的状態の理解はいかに進化したか、またその相互関係はいかなるものかを探る。なお、研究はまだ萌芽状態にあり、具体化できたものから順次実施していきたい。研究には、霊長類、齧歯類、鳥類等を含む広範な種比較、霊長類とヒトを中心とした発達比較、及び障害児研究をも含めたい。

研究テーマ1:他者の状態の理解
a)他者の行動の理解: 他者の動作を見せ、それを手がかりに自己の行動を決定する課題を用いて検討する。例えば他個体が一方に移動したとき、その先にある報酬ではなく、別の場所にある報酬を目指すことができるかを検討する。
b)他者の意図・目的の理解: 他者の注意状態の理解を指標として検討する。例えば種々の注意状態にあるヒトに対して、動物がとる行動の違いを分析し、単なる視線の認識ではない他者の質的状態の差違がどの程度理解可能であるのか検討する。
c)他者の情動状態の理解: 表情や姿勢の理解を指標として検討する。例えば見本合わせ課題を利用し、他者の表情とそれに対応した事物の連合が自発的におこなわれるかを検討する。

研究テーマ2:自己の状態の理解
a)自己の行動の理解: 系列的に産出した過去の行動を手がかりとして現在の行動を決定する課題を訓練し、自己の行動に関するエピソード的記述の可能性を検討する。
b)自己の意図・目的の理解: 将来産出する行動をあらかじめ記述させ、それに合った行動をおこなえるか否かを検討する。
c)自己の情動状態の理解: 自己が受けた結果−例えば報酬を受けたか否か−と、それに対応した事物の連合が自発的におこなわれるか否かを検討する。

研究テーマ3:自己の状態と他者の状態の関係の理解
a)自己の行動と他者の行動の関係の理解: 自己の行動と、それに続いて生じた他者の行動の一致・不一致を判断させる課題で検討する。
b)自己の意図・目的と他者の意図・目的の関係の理解: 検討中
c)自己の情動状態と他者の情動状態の関係の理解: 自己が受けた結果−例えば報酬を受けたか否か−、それに関連した事物、及び他者の喜びや落胆の表情や姿勢の3者間を自発的に連合させるか否かを検討する。

シンポジウム
仮テーマ:「自己理解と他者理解」
国内外から、本テーマに関連した研究をおこなっている動物、発達、障害児研究者を招へいして総合的に論議したい。詳細未定


・板倉昭二
テーマ1:乳児は何に対して心を見出すのか。
乳幼児がエージェントに心を付与するメカニズム、過程を検討する。ロボットを用いた誤信念課題やアニメーションオブジェクトを用いた社会的関係の推測を被験児におこなわせ、乳幼児が「心」や「意図」などを見出していく過程や条件を調べ、発達的変化を検討する。また、failed-attempt paradigmを用い、ロボットの行為を模倣するか、また、完遂しない行為に意図を想定するかを検討する。

テーマ2:乳児のERPの測定-社会的事象に対する脳内メカニズム
アニメーションオブジェクト刺激や実際の人の社会的インタラクションの刺激に対する乳児のERPを測定し、その脳内機構に迫る。


・松沢哲郎・友永雅己・田中正之
「認知機能の初期発達と知識の世代間伝播」
特定の個体が獲得した知識が、いつどのようにして、どういう部分が次世代に伝播するか」というテーマで研究をおこなう。
* すでに進行中の特別推進研究「認知と行動の霊長類的基盤」と並行しておこなう。

研究テーマ1:飼育下チンパンジーの実験的研究
 対象は霊長類研究所の1群14個体のチンパンジー・コミュニティと、とくにそこで平成12年に新たに産出された3個体のチンパンジー乳児(現在2歳2カ月〜6カ月)とその母親たちが対象となる。1977年以来継続している言語・認知機能の比較研究の対象となっているアイと名づけたチンパンジーをはじめ、3個体の母親はいずれも17−25年間にわたって得意な言語・認知スキルを獲得してきた。それらのスキルが、次世代にどのように引き継がれるかを検討したい。

研究テーマ2:野生チンパンジーを対象とした知識の世代間伝播の研究
 松沢らを含めた長期研究の成果として、野生チンパンジーにおける「文化」の発見がある。チンパンジーにおける知識の世代間伝播の概要を、道具使用とコミュニケーション・スキル(音声と表情)に着目して解析し、実験室と比較対照しうる資料を得る。対象は、西アフリカ、ギニア共和国ボッソウ村とその周辺のチンパンジー1群約19個体。1986年以来継続されている長期継続研究をおこなう。

研究テーマ3:チンパンジー以外の種との比較研究
 ヒト(保育園児とそこに併設された施設の自閉症などのコミュニケーション障害児)、オランウータン(マレーシア、ボルネオ島サバ州)、人工保育されたテナガザル(3−4歳児)、ニホンザル、オマキザルなどを対象として、チンパンジーと同様の視点から資料を得て比較研究する。

研究テーマ3:高齢チンパンジーの知覚・認知能力の検討
 霊長類研究所に所属する36歳以上の高齢チンパンジー3個体を対象として、知覚・認知機能の基礎データの収集を目的とする。さまざまな知覚・認知機能を調べる方法を試み、高齢チンパンジーの知覚・認知機能の特徴を探っていく。

シンポジウム
 霊長類研究所の共同利用研究費の支援をうけておこなう共同利用研究会。
テーマ:ヒトを含む霊長類における認知と行動の発達
概 要:2000年より開始されたチンパンジー乳児を中心とした比較認知発達プロジェクト、および霊長類研究所・共同利用研究の計画研究「チンパンジー乳幼児期の認知行動発達の比較研究」の成果報告を中心に、海外の研究者数人を招聘して研究交流をおこなう。
日 程:2003年2月第3週(詳細未定)
場 所:霊長類研究所

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