研究概要と目的
ヒトは、眼前に存在しない事象や事物について自在に思考する。
心像を操作して問題の解決を図ったり、起こりうる問題をシミュレーションしたりする。
こうした時空間から解き放たれた自由な心を持つのはヒトだけが持つ特権なのだろうか。
本研究では、こうした性質を「心の自立性」と呼び、その進化と発達の過程を、広範な種比較と発達比較を通じて実証的に明らかにすることを目的とする。
具体的には、心的表象の自在な意識的変換を必要とする多様な行動課題として思考や推理、それを可能にするための要素的な認知機能としてメタ認知や心的時間旅行、及びそれらの応用的利用と位置づけられる他者理解や社会的知性及び心の理論に関する実証的な資料を、行動実験と行動観察により組織的に収集し相互に比較することを通じて、「心の自立性」の発生過程を明らかにしようとする試みである
当該研究から期待される成果
本研究により、独自の手法で、多様な高次認知機能の存在が多様な動物種や若齢の乳幼児で次々に示され、萌芽的なものであれ「心の自立性」が霊長類をはじめとする動物たちに共有されていることが示されると考えられる。
ヒトとは何かあるいはヒトの独自性に関する問いに対して、比較認知研究からの回答を提示し、ヒトの心の働きを多様な動物の中に位置づけるともに、最もヒトらしいとも思われるこの心の働きがいかに進化したのか、いかに発達するのかに対する回答を提示する。
ヒトと動物を隔てる最後の砦とも言えるものが取り除かれ、ヒト観を刷新。ヒト至上主義を打破し、地球共生系への指針を提示する。
またこの認知機能の神経科学的背景の解明のための糸口を提供するとともに、他者理解等に障害を持つ子供たちへの支援策構築の一助ともなると考えている。
当該研究と関連の深い論文・著書
■藤田和生(著)(2015). 誤解だらけの“イヌの気持ち” 財界展望新社, 187pp.
■藤田和生(編著)日本動物心理学会(監修)(2015). 動物たちは何を考えている?
-動物心理学の挑戦-. 技術評論社 知りたいサイエンスシリーズ, 303pp.
■Itakura, S., & Fujita, K. (eds.) (2008). Origins of the social mind:
Evolutionary and developmental views. Tokyo, Springer Verlag. 211pp.
■藤田和生 (2007) 動物たちのゆたかな心. 京都大学学術出版会. 181pp.
■Fujita, K., & Itakura, S. (eds.) (2006) Diversity of Cognition: Evolution,
Development, Domestication, and Pathology. Kyoto University Press.
414pp
研究経費(単位千円)
年 度 | 直接経費 |
---|---|
2016年度 | 43,300 |
2017年度 | 23,100 |
2018年度 |
23,800 |
2019年度 | 27,500 |
2020年度 | 25,200 |
合 計 | 142,900 |