No.177-1(2001/10/11)

Effects of cognitive challenge on self-directed behaviors by chimpanzees (Pan troglodytes).

(チンパンジーによる自己指向性反応への認知的課題の難易度の影響)

Levense, D. A., Aureli, P., Hopkins, W. D., & Hyatt, C. W.
American Journal of Primatolgy, 2001, 55, 1-14.

ヒトを含む霊長類においては、スクラッチングやその他の自己指向性行動(SDBs)は、社会的相互作用、不安に関連した薬物、学習課題遂行中に出てくる反応に応じて、特異的に表出されるものとして報告されてきている。しかしながら、われわれにもっとも近縁なチンパンジーのSDBsに及ぼす影響の要因に焦点を当てた研究はほとんどない。さらに、課題の難易度に応じて変化するSDBsにおける利き手を検討した先行研究は見当たらない。本研究では、8頭のチンパンジーを対象に、難易度の変わる見本合わせ課題を用いて、SDBsの出現比率、SDBsにおける聞き手、出現するSDBsの種類について実験的に検討した。SDBsは、rub, gentle scratch, rough scratchに分類された。弁別が難しくなるに連れて、SBDsは増加したが、これは容易な弁別から始まった被験体にのみ見られた。難しい弁別から始めた被験体は、課題の難易度に応じてSDBsの出現比率が異なることはなかった。相対的に、より難しい課題では、右手でSDBsをおこなう傾向が認められた。聴覚的なフィードバックシグナルの後では、SDBsは減少した。このことは、SDBsと曖昧さに対する不安がリンクしていることを示すものである。Rubはより顔の方へ、gentle scratchとrough scratchは、より身体の方へ向かっていた。顔に向かうSDBsは、スクラッチとは異なる動機づけが基になっているかもしれない。こうした結果は、非社会的文脈における認知的なストレスの領域に対するSDBsの先行研究をさらに進展させるものであり、チンパンジーにおいて、SDBsが、課題の難易度の操作に対して極めて敏感であることを示すものである。

 

(板倉)