No.56-2(1999/01/27)

Anti-predation behaviour of red colobus monkeys in the presence of chimpanzees.
(アカコロブスのチンパンジーとの遭遇場面における対捕食者行動)

Bshary, R., & Noe, R. (Max-Planc-Institut fur Verhaltensphysiologie)
Behavioral Ecology and Sociobiology, 1997, 41, 321-333.

捕食者と餌生物との相互交渉は、進化的な「軍拡競争」として扱われるのが普通であるが、いまだに証拠は乏しい。コートジボアールのタイ国立公園において、アカコロブス(Procolobus badius)の対捕食者戦略が、チンパンジー(Pan troglodytes)の狩猟行動に対して適応しているのかどうかを調べた。タイのチンパンジーは、アカコロブスの集団を探索し、静かに接近し、協力的に狩猟する。プレイバック実験と自然状態での遭遇場面の観察によって、チンパンジーが近いとき、アカコロブスは林床への露出が少ない木の上の方に逃げ、そこで身をひそめることがわかった。チンパンジーがまだそこそこ遠くにいるときには、アカコロブスは樹冠を伝って静かに逃げ去る。しかし、後者の場面でダイアナザルの集団が近くにいるとき、アカコロブスはたとえチンパンジーの方に向かうことになってもなおダイアナザルの方へ向かった。おそらくはダイアナザルが林床から接近する捕食者に対しての優れた番人であるために、チンパンジーは混群状態にあるアカコロブスの群れを狩猟することを止めた。したがって、捕食者と餌動物双方の戦略のいくつかはお互いに対応している。最後に、この2種の相互交渉を、タイとタンザニアのゴンベとで比較した。なぜゴンベのアカコロブスはチンパンジーを攻撃し、タイのアカコロブスが逃げようとするのかは、この2ヶ所での2種の体の大きさの比率と、異なった森林構造への狩猟技術と逃走方法の適応とで説明可能である。捕食者と餌生物との相互交渉は、環境要因に依存する共適応の特殊な形として、実際に軍拡競争へと発展しうる。

(山越)